石灰石の話

1.はじめに

石灰岩は、主に方解石(炭酸カルシウム・CaCO3)という鉱物から出来ている岩石です。石灰岩を鉱業的に資源として取扱う場合は鉱石名として「石灰石」と呼ばれます。
日本には全国各地に石灰岩が分布しており、300以上の石灰石鉱山が稼動しています。また有名な石灰岩地形としては秋吉台(山口県)、平尾台(福岡県)などカルスト地形や猊鼻渓(げいびけい:岩手県)、井倉峡(岡山県)などの渓谷地形が知られています。
日本の石灰石は、広い太平洋の海底火山の上にサンゴ礁が発達し堆積してできた生物起源のものです。これが、海洋プレートの移動によりプレート上の石灰岩層が大陸の縁にぶつかり、覆いかぶさる形で石灰山ができています。
世界の石灰岩の多くは、大陸近くの浅い海底で堆積したため、大陸からの土砂の流入の影響を受けて品位が低く安定していないのに対し、日本の石灰岩は、先に述べたように、広い海洋の海底で堆積したため、世界で類を見ないほど、純度が高いといわれています。また、国内で100%自給可能な鉱物資源でもあります。

2.石灰と人間の暮らし

人間は古くから石灰石を利用してきました。紀元前2500~1500年に建造されたエジプトのピラミッドやスフィンクス、或いはギリシャ・ローマの神殿は石灰石の石材が使用されています。日本でも、お城や蔵の白壁は、石灰を用いた漆喰であり、人類の歴史は石灰石をなくしては語れません。
産業革命以降は、セメントが発明され人類の発展に大きな役割を果たしてきました。このセメントも石灰石がなくては出来ないものです。また、鉄鋼業においても、石灰石がなければ質の良い鉄が得られません。
20世紀は鉄とコンクリートの文明と呼ばれていますが、この2大産業も石灰石の抜きにしては語れない産業です。また、20世紀は、公害の発生の世紀でもあります。公害の防止においても、石灰石は大きな役割を果たしてきました。
石灰の持つ アルカリ性を利用して、酸性廃液の中和、酸性ガスの中和に使用されてきました。人間の生活により発生するゴミは、焼却処分されており、このとき発生する塩化水素ガスや、亜硫酸ガスの中和に、石灰石や石灰石から製造される消石灰が活躍しています。
現代では、我々の生活空間に使用している物の大半に、石灰石を元にした素材が活用され、鉄鋼、セメント工業はもとより土木・建築、ガラス工業、一般工業、農業・畜産、食品・医療、公害防止と広く利用されておますし、メインではありませんが、石灰石をなくしては成り立ちません。
最近では、鳥インフルエンザや口蹄疫が発生した時に、畜舎や道路に白い粉を撒いて消毒している画像をご覧になったことがあると思いますが、あの白い粉は消石灰(水酸化カルシウム)です。このような分野でも石灰は活躍しています。

 

3.石灰石の特性

生石灰

石灰石の主成分は、炭酸カルシウム(CaCO3)で安定した鉱物です。約900℃で分解し炭酸ガスを放出して生石灰(酸化カルシウム:CaO)になります。生石灰は非常に不安定な物質で、吸湿性が大きく、水を加えると発熱して水和反応を起こし消石灰(水酸化カルシウム:Ca(OH)2)になります。これらの化学反応で、性質が大きく変わり、それぞれ適した用途、使用方法があります。

4.タンカルの歴史

炭酸カルシウム粉末は今から1,300年以上前の奈良時代以前の装飾古墳の壁画の顔料として使用されていると言われています。しかしながら、タンカルが肥料として使用されるまでには、長くかかり、明治時代までは、地力を消耗させるという理由で、石灰やタンカルの使用が禁止されていたといいます。大正から昭和初期にかけて、やっと軍馬を育成する牧草地用にタンカルが使用されるようになりましたが、一般農家への普及までは至りませんでした。今でこそ一般的に使っている「タンカル」という名称は、詩人として有名な宮沢賢治が東北砕石工場の技師となった時(昭和5年)に「石灰石粉」を「肥料用炭酸石灰(タンカル)」と命名したのが現在の「タンカル」の名称の始まりであるといわれています。タンカルが肥料用として奨励されるようになったのは更に後で、第2次世界大戦が激しくなった昭和17~18年に、焼成用の燃料が逼迫してからになります。

5.近江鉱業株式会社の石灰石

伊吹山

東海道本線を米原から上り線に乗車すると、間もなく左手前方に雄大な山が見えてきます。これが伊吹山です。伊吹山は標高1377mの山で、琵琶湖国定公園に属しています。古くは山岳仏教の聖地とされ、日本武尊伝説がある山です。また、伊吹もぐさをはじめ、薬草の山としても知られています。
伊吹山は本山の上層部から滋賀県米原市側にかけて石灰岩層でできています。その石灰岩は古生代ペルム期(約2.9~2.5億年前)に発生したものです。石灰石は、通常10~100μmのカルサイト結晶の集まりですが、伊吹山の石灰石は、一般に微晶質、非晶質(結晶サイズが細かい)石灰石といわれます。それゆえ、焼成して生石灰(酸化カルシウム)にするのに適しています。近江鉱業株式会社は、この伊吹山の石灰石を原料に「粉砕」、「焼成」、「水和」等の加工を加えることにより、各種産業の基礎材料として提供しています。